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ケイ・マックキャロルさんの公開トークより
公開トークは2004年1月13日と14日に東京と横浜で行われました。テーマはそれぞれ「学習障害とブレインジム」「七歳までの子供の成長とブレインジム」でした。講演とはいえ、いくつかのブレインジムのエクササイズとエクササイズをする前と後の微妙な身体の変化を実際に体験することもできました。
ブレインジムの基本的考えでもある、<学習障害者という者はいない。あるのは身体のどこかでエネルギーを停滞させている何かがあるだけ>という出発点が、このトークを通じても明確にされたように思います。

ブレインジムとの出会い
Kayさんがブレインジムと出会ったのは、20年近く前、心理セラピーの勉強をしていた最中でした。30歳も半ばを過ぎて、自分がディスレキシア(識字障害)という耳慣れない障害があると診断を受け、これまでの苦労の正体が判明した時でした。実にタイミングよくデニソン博士と出会ったKayさんは、彼のブレインジムというコースを即座に受講しました。それが1984年の出来事です。学業を半ばあきらめていたKayさんは、これまでの余分な時間と労苦が解消されて、心理セラピーの後には、カイロプラクティックの勉強も開始、人間ばかりでなく動物も対象とする資格を取得するに至りました。
実はブレインジムの創始者であるデニソン博士も、子供の頃学習に問題がある児童でした。一つ一つの事を習得するのに普通の子供の倍はかかるタイプだったのです。彼が8歳の時クラス担任から、両耳をつかまれて、「お前は何でそんなに物覚えが悪い!」と詰め寄られました。それをきっかけに、デニソン博士の母親は、彼が自分のペースでゆっくりと時間をかけて学べるようにと、進級を断念して同じ学年を2度学ばせることにしました。後に大学に進学した博士は、読書法を学び、キネシオロジーの考え方も取り入れて独自の研究を始めました。それが現在のブレインジムへと発展してきました。

脳の発達と反射
人間の脳の成長は、実に受胎した段階から始まり、段階的に爬虫類脳、辺縁系、新皮質へと移行していきます。胎児は母親の胎内にいる時から<反射>と言われるものを発達させます。反射とは、何らかのちょっとした刺激に対して、即座に身体が示す一種パターン化された無意識の反応です。胎児がお腹を蹴るのはモロー反射、産まれるとき身をよじって出てくる動きは、腰の後ろ側に位置する脊柱のガラント反射による助けです。
これらの反射は永続的なものでなく、いわば脱皮のごとく自然経過があります。一つの反射が出現して機能し終わると、次の反射が出てくるといった具合です。ところがある時期に解消になるはずの反射が、成長してからも活発な人達がいます。
例えばガラント反射の場合、生後3週間でスイッチ《オフ》になり、解消するのが自然の過程です。しかし小さな女の子がスカートの下でパンツを穿くのを嫌って脱いでしまう、男の子がシャツをズボンから出す・・・最近はあたかもファッションのようにも見受けられますが、腰のベルトを緩めてヘソの下にズボンをずり落とす・・・といった傾向は、ガラント反射がまだスイッチ《オン》になっているために、腰周辺に当たるものがあると気持ち悪いという感覚なのかもしれません。
Kayさん自身もしばらく前まで、この反射が《オン》になっていたために、ちょっとした不都合があったそうです。椅子の背に背中を当てて真っ直ぐ腰掛けられないとか、誰かが「 ハイ。ケイ」 などと背後から手をまわそうものなら、身体が妙に反応して耐えられなかったそうです。(背中と腰を床につけて行うエクササイズで解消したそう。)
このように成長の過程では、何らかの関係で、消滅すべき反射が残ってしまったり、一度も《オン》になることなく過ぎてしまう反射があったり・・・ということが起こります。するとその部分は、自然の経過を遂げないまま、次の成長過程へと移行します。それはちょうど私達の成長過程を蓄積された層のように考えるなら、正常に発達したかに見える層の下に不自然な経過がそのまま温存されて、時に応じて不都合な反応を生じさせるとも想像できます。

誕生からの成長の過程
最近は一般に、食べ物アレルギー、ヒステリーや抑鬱傾向が、かつてないほど増加しています。これは一つに砂糖や糖分の元になる炭水化物の摂取過多が起因しているのではないでしょうか。ブレインジムでは、いわゆる健康飲料でもなく、お茶でも薬草茶でもなく、<水>を摂取することを進めています。しかし昨今は<水>を飲むのを拒む子供や大人達がいます。砂糖の入ったジュースなどに慣れてしまうと、ただの水が飲みにくくなります。しかし<水>にはマグネシウム、カリウム、塩などのミネラル分が溶け込んでおり、脳とその他の身体を結んで縦横無尽にはりめぐらされた神経細胞が、その末端のシナプスから別のシナプスへと、情報を伝達する時の大切な媒体となります。
できるだけ子供の時から、生のままの<水>を飲む習慣をつけたいものです。
受胎からおよそ15ヶ月までは、爬虫類脳の発達と共に、様々な反射が機能します。この時期の赤ちゃんは純粋に生存に関わるところで生きています。しかし15ヶ月に入る頃、周囲にいる自分と同じような子供達の存在に気づき始めて反応を示します。
4歳頃までに辺縁系が発達します。感情の芽生えの時期です。2歳くらいになると、「イヤ!」という意思表示を盛んに覚えます。
お菓子屋やおもちゃ屋の店先で、これみよがしに「あれが欲しいー!」と駄々をこねるのは3歳。エディプスとかエレクトラ・コンプレックスが始まるのは 4、5歳です。男の子は母親、女の子は父親という、反対の異性である親に熱烈な愛着を抱くようになります。
4歳から21歳頃までに大脳新皮質が発達しさらに成長を続けます。子供は7歳頃になって、人とコミュニケートする事を学び始めます。
首や肩周辺の筋肉が発達して、見たり聞いたりする事に関心が高まります。名前を呼ばれて大きく振り返る動作に必要な筋肉は、コミュニケーションの発達に欠かせないものです。学校に上がり、読み書きを習い始めるのは、身体的発達の過程から見れば、7歳が最も理想的で、シュタイナー教育の考えにも一致します。また日本では20歳で成人と認める習わしですが、身体的には21歳になってやっと一人前の成長が果たされることになります。
人の成長は上記のような過程を巡りながら、まずは人間として生存するのに必要な身体条件が整い、それから感情、そして知性の順序で育っていきます。それを別の観点から見るなら、脳の働きが次々に目覚め、様々な神経回路がつながっていく過程とも言えます。
そして反射の時にも言及しましたが、何らかの影響―――様々な今日的環境要因や心理的影響など―――により、自然の発達過程が妨げられて回路がつながらないことも起こり得ます。それが時と状況に応じて、エネルギーの流れをどこかで滞らせる要因になるとも考えられます。

脳の発達とブレインジムについて
これまで簡単に述べてきた子供の成長過程は、ブレインジムとどのように関わっているのでしょうか?
ブレインジムのエクササイズは、大きく分けて3つのカテゴリーに分類されます。まず始めに《ミッドライン・ムーブメント》
―――これは左右の大脳半球を活性化・統合し、コミュニケーション能力を高めるエクササイズで、大脳新皮質の発達に関わります。
次に《エナジー・エクササイズ》は、辺縁系の働きに関連して、気持ちを静め自分の中心に在ることができるよう促します。三つめの《レングスニング・アクティビティ》は、爬虫類脳に働きかけて、一つのことにフォーカスして向き合うことを可能にします。
大人の場合エクササイズをするとき、大脳新皮質の発達に関わるものが先にくるのは、今いるところから出発するのが大切だからです。これらのカテゴリーに分類される種々のエクササイズは、ある身体動作を行うことによって、関わる筋肉やツボや経絡などを刺激して協調する能力を養いながら、学習能力を高めます。次に数例を挙げてみます。
例えば《ミッドライン・ムーブメント》の代表としてクロス・クロールがあります。これは赤ちゃんがハイハイをしながら習得する身体動作です。ハイハイ・歩く・走るといった動作を学びながら、人は身体左右の協調を覚え、学習能力を向上させながら大脳新皮質の発達を促します。クロス・クロールは立っても座っても行えます。左膝を持ち上げて右手で打つ、それから右膝を持ち上げて左手で打つという、行進に似た動作ですが、これで両脳のスイッチを《オン》にすることができます。これまでに述べてきた、脳の三段階の発達に作用し、自然の経過を遂げなかった部分にも、無意識のうちに働きかけるともいえます。
《エナジー・エクササイズ》は、水を飲むことも一つですが、ここではエナジー・ヨーンを取り上げて見ます。
両手の指先で顔のほほや顎の緊張したところをマッサージしながら、あくびをするエクササイズ。脳と身体をつなぐ神経の50%以上が顎間接を通ることから、情報処理と顎とは大きな関わりがあります。脳への血液循環を増加させ、全身を活性化します。視力向上や言語コミュニケーションにも効果があります。
《レングスニング・アクティビティ》として、グラウンダーという身体動作があります。これはフェンシングの構えのようなポーズから始まり、腰周辺の筋肉群を伸ばします。正中線を越えて重心の取り方を覚え、骨盤をリラックスさせながら、しっかりと大地に立つことを習います。自分が統合した存在として<今ここ>に在ることを体得させ集中力を高めます。
Kayさんは、赤ちゃんの仕草を観察すれば、ブレインジムが分かると言います。赤ちゃんが成長の過程で見せてくれる一つ一つの仕草は、見事に順序だった脳と身体の学習の過程です。人の身体には大いなる知恵が宿っており、一人前の人として成長していくのに必要な術を自ずと知っているようです。

脳の働きと視線の動き
ある日キネシオロジー研究所に、30、40代の女性が訪ねてきました。彼女は自分で自分の脳をコントロールすることができず、一つの事を始めると、やりかけですぐ次に移り・・・と、決して物事を終わらせる事ができない症状で悩んでいました。ブレインジムの代表的なエクササイズの一つ、クロス・クロールをやってもらうと、身体の正中線を横切って手足を完全に交差させることができません。
つまり持ち上げた左膝を右手で打つことができずに下ろし、それから持ち上げた右膝に左手が接触できないわけです。右手で右膝を打ち、左手で左膝を打つという片側の動きは楽にできました。この女性は両脳を同時に働かせることができず、片脳づつ使っている状態であることがわかります。
この女性の動作を観察していると、ホモラテラル・クロール(片側クロール)を行っている時には、目が上目使いになり、クロス・クロールを行っている時には下目使いになっています。
ちょうどその時、診察室の扉が開いて誰かが診察室に入ってきました。椅子にかけてクロス・クロールを練習していた女性は、ふと目を扉の方(左上)に上げた拍子に、膝をポンっと打つことができました。このエピソードは、視線の動きがいかに脳の働きと関連深いかを物語るものです。

脳と身体の<優勢>という考え方
学習障害を抱える人達の多くは、両目が共調作業を必要とする正中領域で問題を抱えています。特に横書きの英文の場合、読むという行為は、左から右への視線の動きになります。そこで左目から右目へと役割交代をするところ、つまり正中線を越える時に混乱が生じます。
縦書きの日本文では、目の動きは上から下へと正中領域内で処理されます。たとえディスレキシアの傾向がある人でも、その場合は学習に支障ないかもしれません。
皆さんご存知のように、身体の左半分は右側の大脳半球、右半分は左側の大脳半球によってコントロールされています。神経がそのように身体の正中線を交差してはりめぐらされているからです。ブレインジムの母体である教育キネシオロジーでは、脳や身体機能において、左右どちらかが優勢であるという考え方をします。というのも学習障害者の多くが<優勢が左右交差しているタイプ>で、片目・片耳で学習している人達だからです。この事をもう少し説明してみましょう。
大脳半球は左右全く異なる働きをしています。たとえばKayさんの場合、モノを見る時に左目が優勢に働くので、猫が目の前を通れば、左目で認識した猫の像が右側の大脳半球に送られます。大抵の人の場合、右脳が形態型空間認識の脳で、見たものをそのまま全体として捉えます。Kayさんの場合も例外でなく、右脳で捉えられた像により、目の前を通過しているのが猫であることを理解しますが、<猫>と言語化するためには、右脳の情報が脳梁という神経の束を通過して言語分析脳である左脳に送られねばなりません。
しかし何かの関係でこの神経回路が閉ざされると、猫とは分かっていても表現することができないという状態が生じます。
脳卒中などで左右身体機能の半分を失った人には、この事が強烈に現れます。特に左右の脳の働きが分化している男性では、通常右側の身体機能が麻痺すると言語能力が失われます。男性よりも感情豊かで、会話の中に感情表現が多く飛び交う女性は、普段から右脳も言語表現に使っているので、麻痺の後にも男性ほど顕著な症状は出ないようです。また左側の身体機能が麻痺すると、右脳にアクセスできなくなって、空間認識が失われます。

脳と身体の機能的プロファイルと学習障害
以下に3つの異なるプロファイルをご紹介します。

(1)ユニフォーム型: 例えば左脳が優勢で、左脳が支配する右側の身体が全て(右目・右耳・右手・右足)優勢の場合。
(2)混合型: 例えば左脳が優勢で、身体の優勢は左右混合。例示されたプロファイルでは、左目、右耳、右手、左足が優勢。
(3)片側型: 例えば左脳が優勢で身体も全て左側が優勢。つまり左脳がアクセスできる右側身体には優勢がなく、非優勢の右脳が支配する身体機能が全て優勢であるような場合。

どなたでも、ご自分のプロファイルを調べられたら、上記のカテゴリーのいづれかに入ることになります。そして学習障害を持つ方の多くは、(2)と(3)タイプが多く見受けられます。つまり脳が身体をコントロールするためには、左右両脳のスイッチを《オン》にしたり《オフ》にしたりのやり取りが複雑な混合型と、身体機能の優勢と脳の優勢が一致しないために、全て優勢でない方の身体を使って学習せざるをえない片側型です。
(2)の混合型で示したプロファイルはKayさん自身の例です。このケースの場合、優勢である左脳にアクセスするためには、右耳と右手の身体機能に限られます。視覚型学習より聴覚型の学習者タイプです。運動をして右脳を活性化することにより、全ての身体機能を使って学習するように方向付けることが、この例のタイプには大切です。
(3)で示した片側型プロファイルは、デニソン博士の例です。左脳優勢の博士は論理で学ぶタイプですが、そのためには全て優勢でない方の目、耳、手足を用いなければなりません。音楽などを用いることによって、右脳を刺激する事が大切になります。
(1)で示したユニフォーム型は、一見何の問題もなく思えます。確かに普段の学習では大変効率よく脳と身体が機能するタイプです。
しかし何かの関係で右脳と左脳の間が閉ざされると、左脳ばかりが強調されて、学習において感情と意義が失われます。

結 論
ブレインジムはどなたにも有効です。ブレインジムのシンプルなエクササイズを通して、左右の大脳半球を活性化し、両脳と身体全体を生かした学習が行えるようになったら、それはどなたにとっても大きな成果のはずです。また受胎から今に至る成長過程のどこかで生じた、例えば結び目のような滞りに対しても、ブレインジムを行うことで働きかけることができるわけです。
「だれも自閉症やアスペルガーやADHD・・・が何なのか、どうしておきているのかをわかっていません」とKayさんは言います。
しかし脳と身体機能の発達の過程で、自然の経過が何らかの要因で妨げられた時、それらは後の発達にも影響を与えます。そしてそれぞれの脳の発達段階を助けるエクササイズがブレインジムには用意されています。とにかく試してみることが大きな飛躍への一助となるのではないでしょうか。ブレインジムは他者を助けようとする前に、まずご自分のためにスタートされることです!